Architecture & Interior
焼菓子 やどかり
「やどかり」はオンライン販売、委託販売を主とする実店舗を持たない菓子工房である。その名の通り、やどかりが自らの成長に合わせて巻貝を引っ越すように、販売先をかりながら生きていく。ある種の現代的な菓子工房である。
工事内容は施主のご実家の2坪ほどの倉庫を菓子工房として機能するように整備することだった。工事面積自体は狭小であるが、特に設備工事などは煩雑な申請業務や細かな寸法納まりなど難しいことが多かった。ノウハウのある設備工事業者の手配でスムーズに工事が行われた。
「やどかり」とは大変面白い名前だと思った。
若山滋の著作の中で「やど」のついになる言葉が「家」だと知った。家とは国家的な側面、制度的なものというニュアンスを元来含んでいるという。その対として人の住まう空間を表す言葉として使われたのが「やど」であるという。家という言葉が漢詩的な一種の歴史観や政治思想や人生観を込めて使われるものだとすれば、やどは情という人間精神の根底にあるものを基本として、遊戯性や軽やかな感覚を持って使われていたという。
そう考えると、工房を実家に「やど」かりしているというのはなんとも面白い。物質的には家に寄り添いながら、やどかりを名乗る。
現代社会の中で自己を確立しながら生き延びる術として「やどかり」から多くの学ぶべきことがあるように思う。
「やどかり」の焼き菓子は全国どこからでも購入可能だ。
山形で生まれた、遊戯性と軽やかさを纏ったやどかりの焼き菓子をぜひご賞味あれ。